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民法(債権法)改正 < 連載第9回 >「定型約款に関する改正民法の概要~組入要件等について~」
改正民法において改正の対象とされたもののうち、与信管理に関連するトピックについて解説する本コラム。
第9回と第10回では、新たに設けられた「定型約款」に関する規定(改正民法548条の2~4)についてお話ししたいと思います。
定型約款に関する規定
1.定型約款の組入要件等について
(1)改正の概要
改正民法では、ある特定の者(事業者等)が不特定多数の者(利用者等)を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものを「定型取引」と定義した上で、定型取引において契約の内容とすることを目的としてその特定の者(事業者等)により準備された条項の総体を「定型約款」と定義しています。
「画一的であることがその双方にとって合理的なもの」とは、大量の取引を迅速に行うために個別交渉を行うことなく画一的な取引を行うことが、事業者側だけでなく利用者側にとっても合理的であるような場合をいいます。保険約款やインターネットサイトの利用規約等は定型約款に該当しますが、一般的な事業者間取引で一方当事者が準備した契約書のひな形等は定型約款に該当しないとされています。
そして、改正民法では、定型取引を行うことを合意した者が、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、または、②定型約款を準備した者(事業者等)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときは、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなしています(以下この取扱いを「みなし合意」と言うこととします)。
ただし、定型約款の条項のうち、相手方の権利を制限または義務を加重する条項で、その定型取引の態様や実情、取引上の社会通念に照らして、いわゆる信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては合意をしなかったものとみなして、相手方の保護が図られています(以上について改正民法548条の2)。
また、定型約款を準備した者(事業者等)は、相手方から定型取引を行う合意の前または合意後相当期間内に請求を受けた場合、既に開示済みである場合を除いて、遅滞なく定型約款の内容を開示する義務を負い、定型取引を行う合意の前に一時的な通信障害等の正当な事由なく上記請求を拒んだときは、前述のみなし合意の規定は適用されないとされています(改正民法548条の3)。
(2)改正の背景
現代社会では大量の取引を迅速に行うために詳細で画一的な取引条件等を定めた約款が広く利用されるようになっていますが、旧民法には約款を想定した規定がなく、確立した解釈もなかったため、その効力が不明瞭で、取引の安定性を欠いた状況となっていました。
また、約款はそれを作成した事業者等に有利な内容となっていることが多いことや、詳細な約款の細部まで読まれることが少ないこと等より、事業者等はいかなる場合でも一切責任を負わない、契約を解約すると過大な違約金が発生する等の不当な条項や、想定外の商品を抱き合わせで購入させられる等の合理的に予測ができない不意打ち的な条項が定められていることがあり、相手方の保護を図る必要が生じていました。
そこで、改正民法では、適用対象となる定型約款の定義がなされた上で、定型約款が契約の内容として組み入れられるための要件等が定められ、また、不適切な条項から相手方を保護するための規定が設けられました。
(3)実務上の留意点
今回の改正は、定型約款を準備・利用して取引を行っている事業者等に影響の大きい内容であり、そのような事業者等は、自己の取引が改正民法に沿ったものとなっているかや、約款に不適切な条項が含まれていないか等について点検し、必要に応じて見直しを図ることが相当であるものと思われます。
この点、定型約款についてみなし合意が認められるための表示については、発見困難な場所に表示することでは不適当で、契約申込みに至る過程で相手方の目に触れるような表示の仕方が相当と考えられており、留意が必要です。
また、どのような条項が不適切な条項とされるのかは必ずしも明確ではありませんが、事業者側に故意や重過失が認められる場合でも責任を負わないとしている条項や利用者側に不合理に過大な違約金等の負担を課している条項、本来の目的である商品やサービスとは関連性の乏しい商品の購入等を義務付ける条項等は、不適切な条項とされる可能性が高いものと思われます。
さらに、改正民法は、事業者等に対し利用者等から請求を受けた場合に定型約款の内容を開示する義務を課していますが、事業者等には、当該開示義務とは別に、定型約款の重要な事項について信義則等に基づき利用者等に説明する義務が生じることがあります。これを怠った場合には損害賠償義務を負うこと等も考えられますので、重要な事項については自ら積極的に適切な説明を行っておくとの姿勢が望ましく、そのような姿勢は長期的に見れば利用者等の信頼を獲得し取引の発展へと結びつくものと考えられます。
コラム筆者プロフィール
東京霞ヶ関法律事務所 弁護士 上田 豊陽氏
東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録(修習55期)東京霞ヶ関法律事務所入所。
主な取扱分野は、企業法務、債権保全・回収、倒産処理、労働事件、商事・民事事件等。
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