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民法(債権法)改正 < 連載第7回 >「相殺に関する改正民法の内容~差押と相殺~」
今回からは、民法改正に伴い変更のあった「相殺」の内容について2回に分けて解説していきます。
相殺に関する民法改正の概要について
2020年4月1日より施行された改正民法(以下「改正法」といいます。)においては、相殺は、主に以下の2点について改正がなされています。
<「相殺」に関する法改正のポイント>
ポイント1:
相手方に負っている債務(これを一般に「受働債権」といいます。)を第三者に差し押さえられた場合に、相殺をしようとする者(以下「相殺権者」といいます。)が、その債務と自己の相手方に対する債権(これを一般に「自働債権」といいます。)を相殺することができるか。
ポイント2:
当初の取引等の相手方から受働債権が譲渡された場合に、相殺をしようとする者が、譲渡された受働債権と自己の譲渡人に対する自働債権を相殺することができるか。
今回の記事では「ポイント1」の差押と相殺に関する改正について、次回の記事では「ポイント2」の債権譲渡と相殺に関する改正について順に説明します。
1.差押と相殺に関する改正(ポイント1)について
(1)改正前の解釈について
改正前の民法511条は、「支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない」と規定し、差押後に取得した自働債権を用いて、差押えられた受働債権との間で相殺することは許されない旨を規定していました。
しかし、この規定だけでは、差押前に自働債権を取得していた場合、その債権を用いて当然に相殺できるのか否かが判然としませんでした。この問題について、最判昭和45年6月24日は、「自働債権が差押前に取得されていれば、自働債権と受働債権との弁済期の先後は問わずに相殺ができる」と判断し、その判断に沿って実務が運用されていました。
(2)改正内容ついて
改正法は、上記最高裁の判例に基づく実務を変更する必要はないとして、受働債権が差押えられた場合であっても、相殺をしようとする者は自働債権と受働債権の弁済期の先後に関わらず、差押前に取得した自働債権と差押えられた受働債権とを相殺して、差押えた者に対し、受働債権は消滅したことを対抗できるという上記実務の考え方が条文上も明記されました(改正法511条1項)。
また、自働債権が差押より前の原因により発生した場合、発生時期は「何時契約を締結したのか」、また、「債権の発生時期についてどのような内容の契約を締結したのか」という偶然に左右される面もあり、相殺権者の相殺に対する期待は合理的な保護に値するものであると考えられます。
したがって、差押後に自働債権を取得した場合であっても、その自働債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、当該自働債権と差押えられた受働債権とを相殺して、差押えた者に対し受働債権は消滅したことを対抗できるとして(改正法511条2項本文)、相殺可能な範囲を改正前よりも拡張しました。
「前の原因に基づいて生じた」場合とは、たとえば、差押前に主債務者の委託に基づいて保証をしていた場合において差押より後に発生した事後求償権などが考えられます。
もっとも、自働債権が「差押え前の原因に基づいて生じたものであるとき」であっても、その債権が差押後に他人から取得したものである場合には、差押時に相殺権者には相殺の合理的な期待はなかったと考えられるため、そのような相殺は認められません(改正法511条2項但書)。
コラム筆者プロフィール
東京霞ヶ関法律事務所 弁護士 梅林 和馬 氏
早稲田大学法学部卒業、2000年弁護士登録(修習53期)
清塚・遠藤法律事務所(現東京霞ヶ関法律事務所)入所
主な取扱分野は、企業法務、債権保全・回収、倒産処理、労働事件、商事・民事事件等
第二東京弁護士会「非弁護士取締委員会」副委員長として非弁活動の取締に関与。
※次回「相殺に関する改正民法の内容~債権譲渡と相殺~」につづく
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