VIEW MORE
民法(債権法)改正 < 連載第4回 >「保証に関する改正民法の内容~保証人に対する情報提供義務②~」
2017年5月26日、民法の債権編を中心とする改正法(以下「改正民法」といいます)が成立し、本年4月1日に施行されました。明治29年に民法が成立して以来、実に120年ぶりの大改正となります。
このコラムでは、今回の民法改正の対象となったもののうち、特に与信管理に関連すると思われる点をいくつか取り上げて、解説したいと思います。
前回に続き、「保証人に対する情報提供義務」について、改正の概要、背景、実務上の留意点をご説明します。
※ 前回の記事はこちら:「保証に関する改正民法の内容~保証人に対する情報提供義務①~」
保証に関する改正民法の内容(前回記事の続き)
3-2.主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
(1)改正の概要
保証契約締結後、主たる債務者の委託を受けた保証人(個人のみならず法人も含みます)から請求を受けた債権者は、当該保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本、利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来している金額に関する情報を提供しなければなりません(改正民法第458条の2)。
債権者が義務違反をした場合の定めはありませんが、この場合、保証人は債権者に対し、債務不履行の一般法理に従った損害賠償請求や保証契約の解除をすることができると解されております。
(2)改正の背景
保証人にとって主債務の履行状況は重大な関心事ですが、その点に関し、保証人が債権者に情報の提供を求めることができるとの明文の規定は今回の民法改正以前にはありませんでした。
そのため、債権者としても、保証人からの求めに応じ、主債務者のプライバシーにも関わる情報を提供してよいのか等の判断に困るということがありました。なお、この問題は、保証人が個人の場合だけでなく法人の場合にも発生する可能性があり得ます。
そこで、本条は、上記保証人保護の観点から、個人、法人を問わず、委託を受けた保証人に対し、主たる債務者の履行状況に関する債権者の情報提供義務を明文で定めました。
債権者が委託を受けた保証人からの請求を受けて本条の情報提供を行った場合は、守秘義務違反には問われないと解されます。
(3)実務上の留意点
債権者としては、委託を受けた保証人から請求を受けた場合、本条の定めに従い、主たる債務に関する情報提供を行うことが必要となります。なお、委託を受けた保証人(受託保証人)か否かの確認のために、保証契約書にその点の記載欄を設けることも考えられます。
また、具体的な情報提供の方法としては、後日紛争が生じた場合の証拠化等の観点からは、内容証明郵便等、記録に残る形で行うことが望ましいと考えられます。
3-3.主たる債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務
(1)改正の概要
主たる債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、個人保証人に対し、期限の利益の喪失を知った時から2か月以内にその旨を通知しなければなりません(改正民法第458条の3第1項、第3項)。
義務違反の効果としては、債権者が上記期間内に通知をしなかった場合、債権者は保証人に対し、主債務者の期限の利益喪失時から保証人に通知を行うまでに生じた遅延損害金について、保証債務の履行請求ができなくなります(同条第2項)。
(2)改正の背景
保証人は、主たる債務者の履行状況を常に知り得る立場にはなく、特にいわゆる第三者保証(経営者以外の第三者が保証人となるケース)の場合、保証契約締結後に、保証人が主たる債務者の資産状況の変化やそれに伴う履行状況等を知ることは困難です。
そのため、主債務者が期限の利益を喪失し長期間が経過したような場合、事情を知らない保証人が、突然、債権者から残元本の一括請求のみならず多額の遅延損害金(約定で14.6%[日歩4銭]の遅延損害金を定めているケースもよく見られます)の請求を受ける可能性もあるため、保証人の保護の観点から本条が定められました。
なお、改正にあたっては、主たる債務者が期限の利益を喪失した場合でも、保証人との関係では期限の利益を維持させてよいのではないかとの議論もありました。しかし、理論的な問題の他に、債権者の事務負担が重くなる等の問題点が指摘され、結局、「債権者の保証人に対する通知義務違反について遅延損害金の請求が認められないという効果を付与する」という本条の内容に留まることとなりました。
(3)実務上の留意点
今回の民法改正以前より、実務上は、主債務者が期限の利益を喪失した時点で、債権者が保証人に対してその旨を通知し、保証債務の履行を求めることが多かったのではないかとも思われます。
今回の改正により、保証人に対する通知を怠った場合、遅延損害金の請求ができなくなることが明文で定められました。したがって、債権者としては、主たる債務者が期限の利益を喪失した場合、速やかに保証人に対して通知を出状することがより一層重要となります。
なお、具体的な通知の方法としては、上記(2)と同じく、後日の紛争が生じた場合の証拠化等の観点からは、内容証明郵便等、記録に残る形で行うことが望ましいと考えられます。
コラム筆者プロフィール
東京霞ヶ関法律事務所 弁護士 青木 智子 氏
早稲田大学法学部卒業、1997年弁護士登録(修習49期)。
清塚・遠藤法律事務所(現東京霞ヶ関法律事務所)入所。
主な取扱分野は、企業法務全般、債権保全・回収、倒産処理、労働事件、商事・民事事件等。
第二東京弁護士会「子どもの権利に関する委員会」に所属し、いじめ、体罰、虐待など現代の子どもの人権に関する事件対応に関与。
※次回「債権譲渡に関する民法改正の概要について」につづく
民法(債権法)改正に関する記事
< 保証 >
個人根保証契約に関する保護の拡大
第三者保証の保証意思確認の厳格化
保証人に対する情報提供義務①
保証人に対する情報提供義務② ※本記事
< 債権譲渡 >
譲渡禁止特約の効力の変更
将来債権譲渡の明文化 他
< 相殺 >
差押と相殺
債権譲渡と相殺
< 定型約款 >
組入要件等について
変更要件等について