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与信管理の知恵袋 Vol.27 与信管理に必要なスキル・能力(後編)

与信管理業務のスキルを高める

こんにちは。MCC与信管理ラボ編集部です。

お客様とお話しするなかで、「与信管理業務にはどのようなスキルが必要ですか?」とご質問いただくことがあります。

前編につづき、与信管理業務を担当する人が求められるスキル・能力を整理してご紹介します。

※ なお、この記事では国内のB to Bビジネスの与信管理業務を前提としています。

与信管理業務に必要なスキル③:財務分析から取引先企業の実情をイメージする能力

与信管理においては、定量分析(財務分析)と定性分析の結果を総合して、取引先企業の実情をイメージすることが求められます。

ベテランの与信管理担当者と新任の与信管理担当者が同じ企業の決算書・調査レポートを基に収益性分析を行うと、多くの場合、分析結果に以下のような差がみられます。

審査対象先の概要(参考例)

社名:ABC株式会社

業況:
・同社P/Lを参照すると、売上高・営業利益・最終利益ともに前年対比で減少。
・売上原価、販売管理費ともに前年対比で増加。

その他事項(主に調査レポート内の記述):
・ABC株式会社の競合他社の売上原価率は横ばい。

・ABC株式会社が取り扱う商材の市場価格は下落傾向にある。

・調査レポート内の記述によると、同社は慢性的な人手不足に陥っている。

・同社は、本業のほかにマンション経営を行っている。マンションの立地は地方都市。

新任の与信管理担当者の審査メモ(参考例)

・売上高は、ほぼ横ばいと言える程度で微減。

・売上高の減少に加え、売上原価と販売管理費が上昇しているため、営業利益が減少。

・従来から継続している営業外収入は微増。営業利益の減少分を営業外収益の増加分で一部相殺しているものの、結果として当期利益は減益。

・当期利益は減益も、最終黒字を確保している。

上記の分析結果は決して間違いではないのですが、数値の分析のみにとどまっており、分析対象先の実情まではわかりにくい印象ですね。

同様の資料を基にベテランの与信管理担当者が分析を行うと、以下のように説明されます。

ベテランの与信管理担当者の審査メモ(参考例)

・売上高は微減程度であるが、売上原価率が上昇している。この業界の市況では、今のところ急激な原価上昇は見られないことを鑑みると、売上原価率上昇の要因は、同社固有のものと推察される。

・市場環境は厳しく、ABC株式会社を含む各社は、販売先からの安売りを強いられている可能性がある。したがって、当期の売上高は微減にとどまっているが、来期以降の売上高の変動につき注視する必要あり。

・販売管理費の上昇の内訳はほぼ人件費分が占めている。昨今の人手不足を背景に人件費が上昇しているものと推察される。なお、調査レポートの記述によると、同社は慢性的な人手不足に陥っており当面は解消が見込めない。

・営業外収入の微増は、過去同社が好調であった時期に土地を購入し建設したマンションの経営が好調であることが要因。しかし、マンションの立地は地方都市であるため、中長期的にみると人口減の影響は避けられないとみられる。

・上記を総合すると、ABC株式会社は本業の収益環境が悪化しており、過去の遺産である不動産の収入で本業の減収/減益分をカバーしている状況。そのマンション経営自体も、長期的には不透明感がある。

・恐らく、このマンションの土地建物は銀行へ担保差入れしている物件とみられる。現時点で危惧する必要はないが、本業の更なる収支悪化とともに不動産市況が悪化しマンションの資産(担保)価値が目減りした際には、金融機関がどのように対応するかについては留意したい。

「良い企業分析」とは?

2つの審査メモを比較すると、分析の深さによって、審査対象先である「ABC株式会社」の見え方が大きく異なることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

与信審査や企業分析の方法に正解があるわけではないのですが、「良い企業分析」「良い審査メモ」にあえて基準を設けるなら、以下のとおりと考えます。

< 良い企業分析/審査メモ(一例) >
・資料(決算書、調査レポートなど)を基に、可能な限り取引先の実情がわかるよう「肉付け」されたもの。
・審査メモ(分析レポート)の読み手(決裁者、営業担当者、その他関係部署など)にとって、「次のアクション」につながる記述があるもの。


※ 次のアクションにつながる記述・・・取引先へのヒアリング内容、当期中や来期に注視すべき具体的な決算数値など。

上記のように、決算分析の数字や指標からあぶり出される取引先の実情をイメージすることは、その取引先企業が置かれている状況を正確に把握し、代金未回収のリスクを回避するための大きな手掛かりとなります。

与信管理業務に必要なスキル④:営業とのコミュニケーション能力

与信管理は、与信管理業務の担当者だけでは完結しません。

与信期間(回収サイト)や取引条件は取引先企業との合意があって成り立つことですが、その与信期間(回収サイト)や取引条件を実際に取引先企業と交渉するのは営業担当者です。

そのため、与信管理を行うには営業担当者に対して、分析結果やこちらが設定したい取引条件、リスク回避策を理解してもらう必要があります。

上記をスムーズに行うために、必要以上に専門的な難しい用語を使うことを控えたり、わかりやすいたとえ話をしたり、過去の失敗事例を紹介したりといった、業務を円滑に進める上での高いコミュニケーション能力が求められます。

業務経験の浅い営業担当者がいる場合は、取引先企業への訪問に積極的に同行することをおすすめします。

訪問前の事前打ち合わせ、取引先企業までの道中でのコミュニケーションを利用して、営業現場の与信管理マインドを高めるようにしてはいかがでしょう。

なお、営業担当者によっては、取引開始を優先するあまり与信管理の優先順位が下がってしまう方もいらっしゃるかと思います。

そのような場合に「与信不可」という結論をつきつけるのは明快な対応ではありますが、営業現場とコミュニケーションを取り、粘り強く理解を求めることも1つの解決策と言えるでしょう。

おわりに

前編につづき、与信管理に必要とされるスキル・能力について解説しました。

与信管理担当者には、決算書・調査レポート等の資料に記載された事実を基に取引先の実情をあぶりだし、社内の関係者を最適なアクションに導くことが求められます。

与信管理業務は、財務分析のスキルに加え、高い思考力・仮説構築力・コミュニケーション能力等が必要な難易度の高い業務ですが、それに見合う奥深さややりがいがあります。

資料を調査・分析し、あれこれと想像をめぐらせ営業担当を中心とした関係者とのコミュニケーションを楽しむことができる方は、社内の与信管理業務にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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与信管理に必要なスキル・能力(前編)
与信管理に必要なスキル・能力(後編)

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