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与信管理の知恵袋 Vol.26 与信管理に必要なスキル・能力(前編)
こんにちは。MCC与信管理ラボ編集部です。
お客様とお話しするなかで、「与信管理業務にはどのようなスキルが必要ですか?」とご質問いただくことがあります。
今回は、与信管理業務を担当する人が求められるスキル・能力を整理してご紹介します。
※ なお、この記事では国内のB to Bビジネスの与信管理業務を前提としています。
与信管理業務に必要なスキル①:信用調書を読み解くスキル
与信管理において、取引先企業への信用供与の可否を慎重に判断するためには、信用調書を読み解く必要があります。
信用調書とは、興信所(大手では東京商工リサーチ、帝国データバンクが有名)の調査員が取引先企業の現地取材を行い、その内容をまとめ上げた信用調査レポートのことです。
このレポートには、会社の商号、本社住所をはじめ、沿革や株主、役員構成、売上の推移、取引金融機関等が記載されています。
非常にわかりやすくまとめられているので、基本的な専門用語が理解できれば、内容自体はそれほど難しいものではありません。
しかし、信用調書を読み解くためには、記載内容の表面をなぞるだけではなく、記載された事実の「背景」や「意味」を読み取ることが重要です。
ケース①:筆頭株主が個人?
たとえば、株主の欄で持ち分80%の筆頭株主が、社長や役員とは関係がなさそうに見える個人であった場合、その意味を読み解き、与信上の問題があるかどうかを判断する必要があります。
このケースでは、筆頭株主が何者か、社長や役員との関係、今後株式を譲渡する可能性の有無などを確認し、取引先企業の経営が今後も安定しているのかどうかを吟味しなければなりません。
調査レポートに書かれた内容を基に仮説を立て、さらなる調査(対面でのヒアリングなど)を進める中でその精度を高めていくイメージです。
ケース②:取引先シェアの大幅な低下
もう一つ、たとえば昨年までは第1位だった取引先のシェアが大きく低下しているものの、売上高全体は昨年とほぼ同額であった場合はどうでしょう。
「売上高が減っていないので特段問題視する必要はない」と言えるでしょうか?
どこに商品を販売するかは、企業にとっては経営の最重要課題の1つです。
この場合、販売先のシェアが変わった理由が、経営方針の変更であったのか、外部環境の要因であったのか、もっと別の理由であったのかを確認する必要があります。
このように、信用調書に記載されている内容から、取引先企業と与信取引を行う上での懸念材料になるのではと思われる箇所を見つけ、どの程度のリスクになるかを分析することが、信用調書を読み解く上で重要なスキルと言えます。
与信管理業務に必要なスキル②:財務分析スキル
財務情報の分析は、与信管理の基本的な手法です。
取引先企業の決算書から各項目の数字の推移を把握すること、各種比率を算出することを通して、取引先企業の良い点や問題点を見つけ出します。
財務分析のポイント①:分析対象先の業種や規模を勘案して財務指標を読み取る
財務分析を行うと、企業を評価する指標を明確に算出できるため、一見すると非常にわかりやすく感じます。
しかし、その結果に囚われすぎてしまうことは、財務分析をはじめたばかりの人が陥りやすい落とし穴でもあります。
ある会社で財務分析をはじめたばかりの与信管理担当の方が、自己資本比率を見る際に取引先の業種や規模を勘案せず、1つの基準のみで良し悪しを判定しようとしていたことがありました。
自己資本比率は、取引先が製造業であるのか、卸売業者であるのか、またはもっと別の業態であるのかにより基準が大きく異なります。
また、大企業と中小・零細規模とのように、企業規模によっても自己資本比率の基準は変わってきます。
業界、企業規模等の諸事情を勘案するべきものであるということを理解し、その前提の下で運用方法を緻密に作り上げる必要があるのです。
財務分析のポイント②:リスクの程度を評価する
見つけ出した問題点に対してどの程度のリスクがあるのかを評価するのも重要なスキルです。
ここでは、売上債権回転期間の分析を例にしてお話しします。
売上債権回転期間は、売上債権(主に売掛金・受取手形)を計上してから代金回収までの期間を示しています。
したがって、売上債権回転期間が長くなることは、与信管理の観点からは資金繰りの悪化につながることから、一般的に良いことではありません。
ただし、数日程度長くなったその事実のみをもって、その取引先企業は信用面で大きな不安があると判断することはやや早計です。
売上債権回転期間の算出期間の中でたまたま長期のビジネスが発生していたのであれば、実際はなにも問題がなかったが、前の期間よりも少し長くなっていただけということになります。
これも、明確な数字で比較できるために起きうることなのですが、算出された指標の意味やインパクトを理解して、どの程度のリスクとして評価するべきなのかをとらえる与信管理のスキルが求められます。
「与信管理に必要なスキル・能力を整理(後編)」につづく